今から5年ほど前の出来事。
ある大手予備校に2人の親子が訪れた。
お父さんとその娘さんだ。
「あの~、うちの子はとてもできない子なんですが…」
「ああ、大丈夫ですよ、うちには今度新設されたコースがあります」
「と、言いますと?」
「できない生徒のための教科書中心に授業する『基礎コース』ですよ」
「え、じゃあうちの子もそこに入れてもらえれば!?」
「はい、安心して当予備校に入ってください!」
「良かった~」
それから1年後、その親子は北斗塾予備校にやってきた。
あの日あの時と同じ、お父さんと娘の2人で。
「初めまして、塾長の一木(いちき)です」
面談の始まりはいつもこのセリフだ。
結局のところこの娘さんはセンター試験で900点満点で300点だった。
今年のセンター試験の結果をもって私の目の前に現れたのだ。
今までも270点くらいの生徒が入ってきたこともある。
300点の生徒の前でひるんでいるわけにはいかない。
しかしながら国公立大学に入学するなら最終的には540点は欲しいところだ。
その生徒(娘さん)は最初は下を向いていた。
お父さんが口を開いた。
「あの~、うちの子はとてもできない子なんですが…」
父親のセリフとともにその生徒が顔を上げて私の方を見た。
不安そうな表情だった。
(続く)